おもちゃは、いわゆる一般の子どもが遊ぶだけのものではなく、何らかの障害を持った方や高齢者の方々のリハビリにも役立ちます。最近では認知症の症状を改善する一つの療法として、おもちゃを用いた「玩具療法(トイセラピー)」が注目されています。
玩具療法(トイセラピー)とは
玩具療法(トイセラピー)とは、ペット療法(アニマルセラピー)、音楽療法(ミュージックセラピー)と同様、病気や障害をお持ちの方、また高齢者の方々の低下した機能の改善と心の安定を図り、生活の質を向上させることを目的に玩具を用いる療法のことです。
ここで用いる玩具とは、特別な福祉用の玩具ということではなく、一般に市販されている玩具でも問題ありません。ただし、この療法に適している玩具、適さない玩具もあります。詳しくは後述の《玩具療法に適した玩具と、適さない玩具》をご覧ください。
おもちゃでリハビリ?
辛く苦痛になりやすい高齢者の「リハビリ」も、おもちゃなら楽しみながらリハビリすることができます。特に幼児回帰する認知症の方には、おもちゃで遊ぶことは容易に受け容れやすく、情緒も安定し笑顔が見られるようになります。昔を思い出し、優しい表情になるのです。例えひと時でも、人としての尊厳を取り戻すことはとても大切なことだと言われています。
認知症の予防が明らかになった玩具療法(トイセラピー)
玩具福祉学会は、厚生労働省の助成を得て2007年に「高齢者への玩具療法の実践の効果の調査研究事業」を実施。軽・中程度の認知症高齢者に玩具療法を行った際、MMSE、MOSESの数値が改善され、認知症の予防にも効果があることが証明されました。
※MMSE(Mini-Mental State Examination)
生年月日や場所の回答、文章を書く、図形を描く、物品名の復唱といった11の質問によって認知症の程度を客観的に測る方法で、認知症のスクリーニングテストとして世界的に最もよく活用されている。
※MOSES(Multidimensional Observation Scale for Elderly Subjects)
セルフケア(着替え、入浴など日常生活)、失見当(コミュニケーション能力や記憶)、抑うつ(心配・不安・悲哀といった感情)、イライラ感・怒り(かんしゃくや攻撃的な行動)、引きこもり(周囲との接触や交流、他者への関心)の5項目の観点で見る、日常生活の行動などから認知症の程度を測る方法。
玩具療法に適した玩具と、適さない玩具
先にセラピーに用いる玩具は一般に市販されているもので構わないと述べましたが、決していい加減に何でもかんでもおもちゃの数を集めればいいというものではありません。きちんと目的に合ったものを取捨選択することが大切です。
《玩具療法に適したおもちゃ》
・頑丈で壊れにくい
・症状に合った、複雑な操作が不要なシンプルなもの
・創造的な表現を促すもの
・感情表現を促すもの
・昔の体験を投影しやすいもの
・子どもが興味を示すもの
・言葉を使わなくても表現できるもの
・決まりきった使い方をしなくてもよいもの
《玩具療法に適さないおもちゃ》
・操作が難しく、時間のかかる複雑なもの
・想像性を使わなくても遊べるもの
・壊れては困るもの、高価なもの
・流行もの
・危険なもの(ガラスなど)
・コンビューターゲーム
・本人にとって思い入れのある大切なもの
玩具療法における4分類
玩具福祉学会では、玩具療法に用いるおもちゃを具体的に次の4つに分類しています。
1.運動機能を促す玩具
遊ぶことで楽しみながら運動機能の向上が期待できます。
【ボール遊び、けん玉、輪投げなど】
2.コミュニケーションを促す玩具
複数の人が一緒に遊べる簡単なゲーム。自然と会話がはずみます。
また勝ちたいという意欲や、勝つための工夫、負けたときの悔しさなど、いろいろな刺激や、思考力の向上が期待できます。
【トランプ、オセロ、将棋など】
3.リハビリ効果がある玩具
指や手先を使うおもちゃ。手先を使うことで脳を活性化させ、リハビリ効果を高めます。
血液の循環と頭の回転を良くし、身体の機能低下を遅らせる効果もあります。
【パズル、ままごとセット、積み木など】
4.癒し系の玩具
遊んでいると安らぎや安心感が得られるおもちゃ。穏やかな気持ちになるので情緒が安定し、乏しかった表情にやさしい明るさが見えるようになります。
【人形、ぬいぐるみ(おしゃべりするものも効果的)など】
以上、玩具療法と認知症の関係についてご紹介しました。この療法のメリットは、費用も比較的安くて手に入りやすく、すぐにでも手軽に始められるところです。
ぜひ玩具療法に適した玩具で、ご家族や介護者の方もいっしょに楽しみ、共に喜びを分かち合ってくださいね。